倫理憲章というハリボテ:『空気を読める』企業がバカを見る新卒一括採用

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2013年に経団連が新卒採用(2016卒以降)に関する指針を打ち出し、就活開始時期の変更を明言しました。

いわゆる『採用選考に関する企業の倫理憲章』です。

  1. 公平・公正な採用の徹底
  2. 正常な学校教育と学習環境の確保
  3. 採用選考活動早期開始の自粛
  4. 採用内定日の遵守
  5. 多様な採用選考機会の提供 

と、立派なことが書かれておりますが、話題となったのは3.採用選考活動早期開始の自粛についてです。

学生が本分である学業に専念する十分な時間を確保するため、採用選考活動の早期開始を自粛する。
具体的には、政府が閣議決定(平成25年6月14 日)した「日本再興戦略」において示されている開始時期より早期に行うことは厳に慎む。

広報活動卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降
選考活動卒業・修了年度の8月1日以降

なお、これらの開始時期に関する規定は、日本国内の大学・大学院等に在籍する学生を対象とするものとする。

出典:採用活動に関する指針(2014年9月16日改訂版)

直接選考に関係ない説明会などは3月1日から、面接などの選考活動は8月1日から開始と定められました。

この指針の目的は、

  1. 十分な学修時間の確保
  2. 海外留学等を促進し教育の充実を図る

というものです。

いいですねぇ。
就活の長期化、早期化を防ぎ、勉学や学外での活動に打ち込む時間を確保できるのは素晴らしいことです。
私の時代では12月から選考が始まっていましたからね。

さて、この指針が実施された2016年卒の就活が終わりを迎え、経団連が打ち出した方針は、

『就活開始時期の8月から6月への前倒し』

です。

2016年卒で急に採用スケジュールを変更したことによって混乱が生じたため、就活開始時期を再度前倒ししたのです。
無計画な就活スケジュールの変更によって、この年の就活生、及び企業は非常に迷惑を被りました。
実際に、マイナビの調査によると、2017卒の7月末時点での内定率は72.7%となり、前年同月度よりも15.7%高い値となっています。

今回は新しい倫理憲章(笑)が新卒採用に与えた影響を、企業視点で解説していきます。
『騙し合い』は学生だけではなく企業でも?
新卒一括採用の滑稽さを垣間見てください。

形骸化する倫理憲章

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賛同企業は少しだけ

倫理憲章に賛同する企業のリストは、倫理憲章の趣旨実現を目指す共同宣言に書かれています。少し古いリストですが、企業数に大きな変化はなく、約800社が賛同しています。

そう、倫理憲章は全国にある約420万社の企業のうち、わずか800社における制度でしかないのです。

制度といっても罰則があるわけではありません。あくまで指針です。

経団連『就活時期を遅らせてね!』
賛同企業A『がんばる』
賛同企業B『そうだね』
賛同企業C『たしかに』

倫理憲章に従わなかったとしても、

経団連の人『守ってって言ったのに』
経団連の人『よくないよ』
経団連『よくない』
経団連『よくないね』

程度のルールなのです。
企業イメージを損なう可能性はありますが、ペナルティ等はありません。

では、限られた企業間のユルいルールが、多くの企業の就活スケジュールに影響する理由は何でしょうか?

多くの企業が倫理憲章を守っているように”見える”理由

800社しか賛同企業がいないにも限らず、多くの企業を巻き込んで就活開始時期が変わってしまう一番大きな理由…

それは…

リクナビ・マイナビが倫理憲章を守るから

です。

単純ですね。
日経ナビなど、その他の大手就職サイトも同様です。
ちなみに私の時代は12月にエントリー開始でした。

現在、一定規模以上の企業は新卒採用を就活サイトに依存しています。
これらの大手就活サイトが倫理憲章と並走している以上、自動的に新卒採用の開始時期もそれに準じます。

対して、外資や一部コンサルでは前年秋から採用活動を開始する企業もありますし、一部の日系大手メーカーもインターンで優秀な人材を囲い込んでいます。
建前上、インターンでの選考は禁止されていますが、所詮は建前です。本番の選考で優遇されたり、選考が免除されるなど、様々な手法で学生を確保しようとします。

また、倫理憲章は『学習時間の確保』という大学からの希望に沿っていますから、大学側の動きもこれに準じます。
説明会の開催や学内推薦の手続きなど、新卒採用では大学とのやり取りも重要です。
企業も大学との関係をわざわざ悪化させてまで採用活動を早めるマネはしません。

新卒採用の媒体となる就活サイトや大学が倫理憲章に沿っているため、2015年以前と比べて、全体的な新卒採用スケジュールは確かに後ろ倒しになりました。

それでは、結果として新卒採用の早期化・長期化は改善されたのでしょうか?

長期化しただけの就職活動

新卒採用スケジュールを振り返ると、

外資や一部コンサルなどのスタートダッシュ組が静かに選考を終わらせたあと、冬には賛同企業以外の一部企業が選考を開始します。
その後、3月に大量の企業が説明会を開始します。そこから、微妙に倫理憲章を破る企業がGW頃に選考活動を開始し、6月から8月にかけて、殿様商売の大手企業や、律儀な賛同企業が選考を開始する…

簡単に言うと、

余計長期化しています。

リクナビに載っているようなメジャー企業のみを受ける場合は、概ね倫理憲章に沿った就活スケジュールとなります。

ただし、外資やコンサル、倫理憲章なにそれ?なアウトロー企業など、幅広い企業の選考を受ける学生にとって、就活はむしろ長期化します。
秋から始まる就活が、以前であればGWには沈静化していたのに、夏まで継続するわけですからね。

倫理憲章は『現場視点』のない、形骸化された制度になっているのが現状です。

ダラダラ就活を防ぐためにも、自己分析や企業研究は早めに済ませておき、効率的に就活に取り組めるようにしよう!

企業視点で見た倫理憲章

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正直者がバカを見る?

企業視点から見ても倫理憲章はデメリットだらけです。

倫理憲章はあくまで指針です。
守る企業もあれば破る企業もあり、空気を呼んだ者負けになっているのです。
就活スケジュールが変更になり間もないため、守るのか抜け駆けするのか、方針が定まってない企業も多いです。

優秀な学生を採用する最も有効な方法が『青田買い』です。
これに気づき、早期募集を行う企業が増えるほど、就活は長期化し、学生の負担は増えてしまいます。

そして就活は再び早期化し、度を超えたところで経団連が再度警告し…

歴史は繰り返す…とはよく言ったものです。

大手企業と中小企業それぞれの苦悩

とはいえ、『大部分』の企業の採用開始時期は後ろ倒しになっています。
就活サイトを媒体に新卒採用を行う企業では、初夏に採用活動が集中するため、選考活動は非常にタイトになります。
そうなると、学生は選考を受ける企業を絞り始めます。

企業研究を重ねているとはいえ、学生に伝わる企業情報などほんの一部です。学生が知名度の高い企業を優先するのは目に見えています。

求人を掲げておけば学生が集まってくる大企業は倫理憲章を”ある程度”守っている企業が多いです。あえて企業批判につながる行為もしません。
とはいえ、短期に選考が重なることにより、大企業同士のバッティングも増えます。(人材確保の意味で)競争力の強い企業だけが有利な状況です。

採用時期が広がれば多くの学生が、多くの企業を受けられます。
ただし、大学から離れる時間は増え、特に大学院生は研究活動への影響が甚大です。
採用活動が短期化すれば、授業や研究、留学などに使える時間は増えます。反面、選考のバッティングや、青田買い企業の採用活動など、混乱を招きかねません。

一長一短ですが、いずれにしても新卒一括採用のデメリットが目立ちますね。

まとめ:新卒一括採用の限界

新卒一括採用のメリットは、『採用と社員教育の効率化』です。

多くの学生を一回で採用した方が、コストも時間も削減できますし、新入社員教育も効率的です。
転職市場も活発化し、人材の流動化も進んでいるとはいえ、終身雇用の色がまだまだ強い日本。

”採用活動が柔軟なアメリカみたいに…”

”卒業後に就活するドイツみたいに…”

隣の芝は青く見えますが、日本のメジャーなキャリアプランに照らし合わせると、一番合っている制度かもしれません。

そもそも混乱を引き起こす中途半端な制度が一番の悪ではないでしょうか。
そもそも卒業前の新卒採用自体が『学習時間の確保』を否定しているようなもんです。
新卒一括採用を続けるのであれば、倫理憲章の厳格化や、採用方法自体の抜本的な改革が必要です。

学生の皆さんも、就活の時期になってから将来を考えていては混乱するだけです。インプットがなければ最適な選択も出来ません。

自己分析や企業研究は新卒採用を乗り切るためだけではありません。

企業に勤める以外の選択肢だって沢山あります。
自分のやりたいことや、充実感を見出せる出来事、人生で大事にしたいことなどを常に考えながら、目的意識を持って大学生活を送りましょう。

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